<感想>
朗読作品は工藤直子作の「ねこ はしる」でした。朗読と演奏を場面ごとに交互に行われました。
□木内さんの朗読はキャラクター全てに息が吹き込まれ、主人公の猫のランや親友の魚以外にもウサギやカエル、蟻、けやき、池の藻、太陽など沢山のキャラクターを演じられましたが人が変わり話し方や雰囲気が全然違いました。個人的には石の声が好きでした。前半は様々なキャラクターによるランの観察日記のようで、キャラクターがコミカルで生き生きとしていました。
□大村さんと藤本さんお二人の演奏は場面ごとに音色がガラッと変わり、空気だけでなく場所さえも変わったようでした。前半はけやきのセリフの後の演奏が印象的で、美しくも愛のこもった旋律とどっしりと切迫するような場面や、とても繊細で息を呑むようなトリルが素晴らしく、音が深くなるにつれてこちらの心も引き寄せられました。
□後半は少し不穏な空気になり演奏も朗読も悲壮感漂い初め、憂いを帯びていました。「沈黙というものは言葉よりもたくさんのものを伝える」というシーンでは暫く沈黙が続き、より一層朗読の世界と客席側との境界線が外れ、物語の中に入り沈思黙考しました。
□ランに食べてもらうことを決意した魚のシーンでの演奏では、遠くからこちらに寄り添ってくれるようなクレッシェンドが巧みに使われ、優しい旋律でも少し寂しさが伝わりました。魚の決意のように一本の強い意志の線が見える音楽でした。
□太陽のセリフの後の夕焼けこやけは、物語の意味も加わって音圧が伝わり、とても心に響き圧巻で感動的でした。
□最後のランと魚の攻防の切迫した朗読と演奏は息を呑みました。激しく鋭く力強かったです。
□「ねこ はしる」の複雑ではなくとも決して単純ではないストーリーを各キャラクターと共に話を展開させ、物語の中に引き込む木内さんの表現の多さにとても感銘を受けました。また、洗練された澄んだ音のフルートと、穏やかでも凛としたピアノの繰り出す音楽に浸れました。話の展開に合わせて選曲された曲を演奏され、音楽と物語の奥ゆかしさがより一層感じられました。
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