音楽

【音楽】 けんぶんセレクトステージ 古楽器グループ『葦』のコンサートに行ってきました! (2024.9.11)~ Kenbun Select Stage in Sep. ~

江津山
江津山
熊本市健軍文化ホールで開催されたけんぶんセレクトステージ 古楽器グループ『葦』バロック音楽への誘いア・ラ・カルトに行ってきました。
『葦』の皆さんは1977年に熊本で結成された古楽器アンサンブルグループです。ヨーロッパ中世、ルネッサンス、バロック期の作品を九州各地で演奏されています。今回使用されている「リコーダー」は縦吹きフルートの代表的な楽器で1500年頃に現在の型でソプラノ・アルト・テノール・バス管など様々な音域のものが作られ、17世紀半ばには全体を3つの部分に分解できるバロック式リコーダーが出現しました。「ヴィオラ・ダ・ガンバ」という楽器は16~18世紀半ばごろまで広く用いられた弓で弦を擦って音を出す擦弦楽器です。”ガンバ”とはイタリア語で「脚」という意味で、脚に挟んで演奏されます。チェロに少し形が似ていますがギターのようにフレットがあります。「チェンバロ」はピアノの先祖にあたる楽器とされています。14世紀頃からヨーロッパに存在し、18世紀以降ピアノが登場するまでは伴盤楽器の主役として活躍していました。ピアノは弦を下からハンマーで打って音を出しますが、チェンバロは弦を爪で弾いて音を出します。
「フラウト・トラヴェルソ」は今日のフルートの前身となった木管の横笛です。現在のフルートは金属製ですが、フラウト・トラヴェルソは木製です。

1.ヨハン・クリスティアン・シックハルト 作曲
4本のアルト・リコーダーと通奏低音のための協奏曲第2番 ニ短調
Ⅰ.アレグロ Ⅱ.アダージョ Ⅲ.ヴィヴァーチェ Ⅳ.アレグロ
(アルトリコーダー)古井由紀子さん、友田哲郎さん、髙木ちかこさん、杉本典代さん
(ヴィオラ・ダ・ガンバ)船方公子さん (チェンバロ)右ノ子万里奈さん

作曲家のヨハン・クリスティアン・シックハルトは、バッハやヘンデルと同時代に活躍し、リコーダーのための曲を沢山作曲されたそうです。4本のリコーダーのそれぞれの連符が重なり合い、それをチェンバロとヴィオラ・ダ・ガンバが支え、軽快さもありつつリコーダーのあたたかい音が印象的でした。またリコーダーのハーモニーを活かしたアンニュイなメロディーも聴いていて癒されました。

2.アントニオ・デ・カベソン 作曲
「ご婦人の望み」によるディフェレンシア
(ヴィオラ・ダ・ガンバ)船方公子さん (チェンバロ)右ノ子万里奈さん

作曲家のアントニオ・デ・カベソンはスペインのルネサンス音楽の作曲家・オルガニストで、幼少期に失明したそうです。今回チェンバロの伴奏と、ヴィオラ・ダ・ガンバのソロで演奏されました。リズミカルというよりは歌うようにゆったりとした楽曲で、心の奥底にある想いが染み渡るような演奏でした。

3.ヨハン・セバスティアン・バッハ 作曲
『お休み この世に選ばれしもの』モテット「イエス、わが喜び」BWV227より
(ソプラノ1)本藤久美さん 村中美香さん (ソプラノ2)髙橋彰子さん
(アルト)古莊恵梨さん 船方公子さん (テナー)大川猛さん 鎌田嗣さん 村中考治
さん

こちらの曲は多声の宗教的な合唱曲(モテット)でコラール(讃美歌)を取り入れて全体を構成されているそうです。アカペラで歌われ、音の響きや美しさを意識されて各パートに魂がこもっているようでした。全く声がぶつかり合うことなくパズルのピースが綺麗にハマっているように感じました。

4.ジョセフ=ニコラ=パンクラス・ロワイエ 作曲
ラ・サンシブル  スキタイ人の行進
(チェンバロ)右ノ子万里奈さん

右ノ子万里奈さんの独奏でした。「ラ・サンシブル」は装飾音がふんだんに使われコロコロとした動きの中に低音もしっかり鳴っており聴き応えがありました。短調の曲で少し寂しさもありつつも優しさも感じるいろいろなメッセージが込まれた曲だと思いました。「スキタイ人の行進」ですがスキタイ人とは古代の騎馬遊牧民族だそうです。とても沢山の音や連符が重なり合い、リズミックで激し目の曲調ですが、チェンバロの音色だと重くなりすぎず美しさも感じました。チェンバロでこのような豪快さも感じる曲が聴けるのは非常に珍しく圧巻の一曲でした。

5.ゲオルク・フィリップ・テレマン 作曲
ファンタジー第8番 ホ短調 『無伴奏フルートのための12のファンタジー』よりラル
ゴ スピリトゥオーゾ アレグロ
(フラウト・トラヴェルソ)坂田聖子さん

フルートの先祖と言われるフラウト・トラヴェルソの独奏でした。現在のフルートよりは音量が少し小さいそうですが、とても綺麗で味わいのある音色でした。叙情的に歌う場面や、跳ねるように軽い場面、また民族曲のような独特の風景を感じる場面など遊び心がありフラウト・トラヴェルソの良さが一層良く感じられました。

6.アントニオ・ヴィヴァルディ 作曲
『我らは主をたたえ』「グローリア」ニ短調RV589より
(ソプラノ1)髙橋彰子さん (ソプラノ2)古莊恵梨さん
(ヴィオラ・ダ・ガンバ)船方公子さん (チェンバロ)右ノ子万里奈さん

希望に満ちたようにタイトル通り敬意をもって主をたたえているような楽曲でした。ソプラノの掛け合いが美しく、声も伸びやかで綺麗に響きあいとても癒されました。

7. ディートリヒ・ブクステフーデ 作曲
宗教的カンタータ「イエスよ、わが命の命」
(ソプラノ)村中美香さん 本藤久美さん 髙橋彰子さん (アルト)古莊恵梨さん
(テナー)大川猛さん (バス)鎌田嗣さん 村中考治さん
(フラウト・トラヴェルソ)坂田聖子さん
(ヴィオラ・ダ・ガンバ)船方公子さん (チェンバロ)右ノ子万里奈さん

作曲家のブクステフーデは、バッハが若い頃師として心酔していたほどの大作曲家だそうです。全体的に神秘的で簡単には触れていけないような厳粛な雰囲気でした。楽器組のそれぞれの見せ場もあり、声と古楽器がお互いを邪魔せずまとまりマッチしていました。独特の鮮やかな世界観が非常に印象的でした。

アンコールはパヴァーヌ「わが命の想い人」を演奏されました。

<感想>

 普段ではあまり触れることのない古楽器とバロック音楽の魅力に満たされるステージだったと思います。前身や先祖と言われる古き良き楽器の味や個性が今の時代に聴けることは非常に素晴らしいのではないのでしょうか。始まりがあったからこそ今の楽器に対してのありがたみも感じました。またバロック音楽は短調な曲が多いのですが、今回のプログラムを拝聴して一言でただ暗いだけの曲ではないことがわかりとても勉強になりました。曲調は短調でも、奥深くから湧き出る喜びや希望、短絡的には表現できない明るさや美しさが味わえる音楽がバロック音楽には沢山盛り込まれていると思いました。一曲一曲に丁寧に解説もされ非常にわかりやすく、古楽器とバロック音楽を愛する気持ちがとても伝わるコンサートだったと思います。

※写真は、使用の許可を得たものを使用させていただいております。